遺言・遺言書

ここでは、遺言でできること、および遺言書の種類や、作成のための要件や手続きについてご説明いたします。

遺言とは

被相続人から相続人となる方への、主に法律関係の意思を表したものであり、その意思を書面にしたものを遺言書といいます。

遺言書があれば亡くなったときに遺産は原則として遺言書のとおりに分割されますので、残された相続人同士の争いは起こる可能性が小さくなります。

ただし、遺言書の書き方のルールを無視した遺言書は無効になることもありますのでご注意ください。
場合によっては専門家(司法書士など)にご相談したほうが安心です。

「遺言」の世間一般的な読み方は「ゆいごん」ですが、法律用語としての読み方は「いごん」です。

ですから、法律の専門家が「いごん」と言った場合は、「遺言」のことだとご理解くださいませ。


遺言を残すことによりできること 

相続分の指定

民法の法定相続分とは違う割合で相続させたい場合。
相続人のうちの誰にどの割合で相続させるかを指定できます。

例:長男だけに全ての財産を残したい。
  妻だけに財産を残したい。


遺贈や寄付による財産処分

法定相続人でない人に遺産を残す場合。
遺産を特定の相続人や法定相続人と関係ない第三者に贈ったり(遺贈)、公益法人などに寄付できます。

例:お世話になった内縁の妻、夫に財産を贈りたい。
  看病をしてくれた嫁に財産を贈りたい。
  死後は遺産を特定の団体に寄付したい。


認知

婚姻届を出していない男女間に生まれた子を、親が戸籍上の手続きによって自分の子だと認めることです。
遺言によって認知されてもその子は相続人になれます。


遺言書の種類 

特定の財産を特定の人に遺したい場合、遺言書を作成する必要があります。
遺言には、以下のとおりいくつかの種類があります。

通常の遺言には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。

主な遺言の種類と特徴は次のとおりです。


1.自筆証書遺言 

自筆証書遺言とは

遺言の全文、日付及び氏名をすべて自分で記載し、名前の下に押印(できれば実印)して作成します。

ワープロやタイプライター、代筆はダメです。無効になります。

自筆証書遺言は費用がかからず、自分だけで作成することができます。
一方で、形式不備により法律上無効になる可能性があります。

遺言の保管者は誰でも構いません。
遺言を作ったことを秘密にしておくこともできますが、死後に相続人が発見できない可能性もあります。

遺言者自身が保管する場合には、相続人に場所を明らかにして、遺言書は封筒に入れて封印することをお勧めします。

遺言者が亡くなったときは、遺言書は開封せず、家庭裁判所に持っていく必要があります。遺言書が見つかっても勝手に開けてはいけません。家庭裁判所の検認手続が必要です。

ただし、法務局における「自筆証書遺言書保管制度」を利用して、法務局で遺言書を保管してもらった場合は、家庭裁判所の検認手続きは不要です。

自筆証書遺言のルールに関して民法の一部改正がありました(平成31年1月13日施行)

ポイントは以下のとおりです。

  • 自筆証書遺言の本文・日付・氏名は自書・押印が必要(従来どおりの部分)
  • ただし、財産目録はワープロ打ちでもOK!(だけど財産目録の各ページに署名押印は必要!)

自筆証書遺言のなかの財産目録はワープロ打ちでも認められるようになりました。

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年7月6日成立。)のうち自筆証書遺言の方式の緩和に関する部分が、平成31年1月13日に施行されました。

同日以降に自筆証書遺言をする場合には、新しい方式に従って遺言書を作成することができるようになります。


自筆証書遺言をする場合には、遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自書(自ら書く。代筆・ワープロ打ちはだめ。)して、これに印を押さなければならないものと定めています。

今回の改正によって、自筆証書によって遺言をする場合でも、例外的に、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは、その目録については自書しなくてもよいことになります。

自書によらない財産目録を添付する場合には、遺言者は、その財産目録の各ページに署名押印をしなければならないこととされています。

法務局における自筆証書遺言書保管制度がはじまります(令和2年7月10日から)

「自筆証書遺言」を法務局で保管してもらえる制度がはじまります。

法務局が保管した遺言書については、家庭裁判所の検認手続きが不要になります。

法務局が保管しますので、保管期間中は、遺言書の紛失や偽造のようなトラブルを防ぐ効果が期待できます。

法務局は、自筆証書遺言の書き方まではアドバイスできませんので、自分で書き方を調べるか、司法書士などの専門家に相談してから作成することをオススメいたします。

ポイントは以下のとおりです。

1.自筆証書遺言の保管の申請について

  • 法務局で保管してもらえる遺言書の種類は「自筆証書遺言」です。
  • 自筆証書遺言は、遺言書自体は、遺言をした人が自分で書く必要があります。法務局は保管はしてくれますが、書き方のアドバイスはできません。
  • 法務局は、遺言者から保管の申請があると遺言書を保管します(手数料は必要)。
  • 手続きは、遺言者が本人でする必要があります(代理人による手続きは不可)。事前に法務局に予約をお取りいただくことになります(事前予約制)。
  • 申請できる法務局は、遺言者の住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局です(ただし、遺言書保管所として指定された法務局に限りますので、事前に確認した方が良いです)。
  • 法務局が保管した遺言書については、遺言者の死後、家庭裁判所の検認手続きは不要になります。

2.預けた遺言書の閲覧・撤回などについて

  • 遺言者は、法務局に預けた遺言書の内容をあとで閲覧することができます(手数料は必要)。
  • 遺言者は、法務局に預けた遺言について、「保管の撤回」を法務局に申請することができます。生前は、遺言書を返してもらえます(手数料は不要です)。
  • 遺言者は、生前に住所・氏名などの変更が生じたときは、法務局に変更の届け出をすることができます(手数料は不要です)。
  • 法務局に預けた遺言書の保管を撤回(遺言書の返却)をせずに、新しく作成した自筆証書遺言を法務局に保管申請することができます。この場合、新しい遺言書と古い遺言書の内容に抵触する部分があるときは、その抵触する部分に限り、新しい遺言書の内容が優先することになります。
  • もちろん、古い遺言書の保管の撤回後に、新しい遺言書の保管申請をしていただいても構いません。

3.遺言者が亡くなった後について

  • 遺言者の死亡後、相続人・受遺者・遺言執行者などは、遺言書保管事実証明書(遺言書を保管している事実の証明)の交付の請求ができます(手数料は必要)。
  • 遺言者の死亡後、相続人・受遺者・遺言執行者などは、遺言書情報証明書(遺言書の内容を証明した書面)の交付の請求ができます(手数料は必要)。

詳細は法務局のホームページでもご確認いただけます。

関連リンク:法務省ホームページ・法務局における自筆証書遺言書保管制度について


2.公正証書遺言 

公正証書遺言とは

公証役場の公証人の作成する公正証書によってなされます。

遺言者が遺言の内容を公証役場の公証人に伝え、公証人が作成する遺言書です。

公正証書遺言の場合は、公証人に依頼すれば、自書が難しいときでも作成することができます。

前記の自筆証書遺言は、原則として全文を自分で手書きしなければなりませんので、体力が弱ってきたり、病気等のため自書が困難となった場合には、自筆証書遺言をすることはできません。

公正証書遺言の場合は、遺言者が署名することさえできなくなった場合でも、公証人が遺言者の署名を代書できることが法律で認められています。

なお、遺言者が高齢で体力が弱り(あるいは病気等のため)、公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人が、遺言者の自宅又は病院等へ出張して遺言書を作成することもできます。

専門家である公証人が作成に関与いたしますので、遺言が形式不備により無効になる確率が格段に低くなります。

また、遺言の原本が公証役場に確実に保管されますので、改ざんの心配は全くありません。
したがって、家庭裁判所の検認手続は不要となっておりますので、
相続開始後,速やかに遺言の内容を実現することができます。

デメリットとしては、作成のための公証人手数料がかかることと、遺言書作成に2人の証人が必要となります。

公正証書遺言の作成を依頼される場合

遺言の内容と公証人手数料をご準備いただくほか、
証人2人をご用意いただくことになります。

その他、最低限以下の資料をご準備頂くことになります。


3.秘密証書遺言 

遺言書は自分で作成し、公正証書手続きで遺言書の存在を公証しておくものです。

遺言の本文は自書でなくても署名ができれば作成可能です。
公正証書遺言のように公証人が内容を確認することがありませんので、内容の機密性が確保されますし、公正証書遺言を作成するよりは費用がかかりません。

ただし、公正証書遺言と同様に、遺言を公証役場に提出する際に2人の証人が必要です。

公証人は遺言書の内容を確認することはできませんので、遺言書の中身は形式的不備により無効になる可能性はあります。

秘密証書遺言の開封には、家庭裁判所の検認が必要です。


遺言書と遺留分について 

相続は(遺言があれば)遺言に従わなくてはなりません。
ただし、法定相続人のうち、遺留分(民法で保証されている相続財産)を侵害された相続人は、遺留分を請求する権利があります。

遺留分は法定相続分の2分の1です。
相続人が直系尊属(父母・祖父母)のみの場合は3分の1です。

遺留分を請求できるのは、子・配偶者・直系尊属のみで、兄弟姉妹にはありません。
したがいまして、法定相続人として兄弟姉妹がいる場合に、「兄弟姉妹には遺産を一切相続させない。」という内容の遺言を残した場合、兄弟姉妹は遺留分を請求する権利はないということになります。