株式会社の役員登記を忘れたまま12年間経つと強制解散するお話
「会社の役員は任期があると聞いたことがあるけど、何年なのかな?」
「会社の登記をほったらかしにするとダメなのかな?休眠会社ってどんな会社のことなのかな?」
この記事の筆者について
こんにちは、諌山(いさやま)です。
2009年に司法書士を始めてから10年以上経ちました。
会社の登記はメインの業務の一つして長年取り扱っています。
今回は、会社の役員の任期や、登記を長い間放置したときに解散登記がされてしまうことについてお話ししたいと思います。
この記事の概要
株式会社の役員任期は最大10年
株式会社の役員である取締役の任期は「最大10年」にすることができます。
会社法という法律では、取締役の任期は原則2年となっていますが、つぎの条件を満たしている会社は、最大10年まで伸ばすことができます。
- 定款で取締役の任期を10年と定めること。
- 定款に株式の譲渡制限に関する定めがあること。
- 委員会(監査委員会、指名委員会など)の設置会社でないこと
「定款」とは、会社ごとに定められている基本規則のことです。会社を設立したときに必ず作成してるものです。
比較的小規模の株式会社でしたら、定款に「株式の譲渡制限の定め」があるケースが大半です。
委員会を設置している会社は上場会社などかなり少数に限られますので、ほとんどの会社は当てはまりません。
うちの会社の役員の任期は何年なのか?
会社の役員の任期は、登記簿謄本(登記事項証明書)を見ても載っていません。
定款を確認しましょう。
定款に記載してあることが通常ですので、定款の「役員の任期」とか「取締役の任期」といった条項を見て、任期が何年になっているか確認することができます。
株式の譲渡制限に関する定めは会社の登記事項になりますので、会社の登記簿謄本で確認することができます。
「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社(株主総会、取締役会)の承認を要する」という規定が載っていれば、あなたの会社は株式の譲渡制限の定めがある会社になります。
有限会社・合同会社に役員任期の定めはない
有限会社(現在の特例有限会社)と合同会社の役員には任期の定めはありません。
したがって、自分から辞めたり、解任されることがなければ、任期切れで退任することはありません。
任期が切れる役員はどうなるのか?
株式会社で役員の任期が切れてしまうときは、その前に会社の定時株主総会で再び選任されないと、任期切れで退任することになります。
そして、株主総会で役員に選任されたときは、就任したときから2週間以内に登記申請しなければなりません。
もし2週間が過ぎてしまってから登記申請したときは、100万円以下の過料という行政罰が下される場合がありますのでご注意です。
関連記事:会社・法人登記申請の出し忘れに注意【過料の制裁あり】
つぎのようなご意見をいただくことがあります。
「役員の顔ぶれはずっと変わらないので、任期が切れていても、別にそのままでかまわない。役員を再任させる登記もしないので、過料の制裁も来ないはずだ。」
たしかにそうですが、2週間という登記すべき期間の問題だけではなく、また別の問題も出てきます。
つぎの項でお話ししますが、登記をしないまま長期間(12年間)ほったらかしにすると、会社が強制的に解散になってしまうケースがあります。
登記を12年間放置すると強制解散になるかも
最後に登記したときから12年間(一般社団法人・一般財団法人は5年間)なにも登記をしていない株式会社は、強制的にみなし解散になるおそれがあります
会社の登記を管轄している法務局は、毎年一定の時期に、長期間なにも登記がされていない会社(休眠会社)を整理する作業をしています。
会社の登記簿謄本(登記事項証明書)、印鑑証明書を取得することがあっても、これは登記申請としてカウントされません。
会社の登記簿謄本や印鑑証明書の取得は、証明書の取得に過ぎないからです。
法務局が休眠会社を整理する理由
なぜ、法務局が休眠会社の整理をしてるかと言えば、理由として以下の二つがあります。
- すでに実体のない休眠会社を放置しておくと会社登記に対する信頼を失うことになるから
- 休眠会社が売買の対象となって良からぬ人たちの手に渡り、犯罪の手段として使われかねないため
そのため、毎年一定の時期に、休眠会社の整理作業をしているのです。
休眠会社(法人)を整理した件数
これまでの法務局による作業実績は以下のとおりです。
平成14年までは5年に一回でしたが、平成26年以降は毎年実施しています。
近年になって会社・法人登記がコンピュータ化されたことで、休眠会社の選び出しが容易になったからです。
毎年、数万社の会社・法人を強制的に解散
時 期 | みなし解散となった株式会社数 | みなし解散となった一般社団法人および一般財団法人数 |
昭和49年 | 67,950 | |
昭和54年 | 69,161 | |
昭和59年 | 93,018 | |
平成元年 | 88,640 | |
平成14年 | 82,998 | |
平成26年 | 78,979 | 478 |
平成27年 | 15,982 | 645 |
平成28年 | 16,223 | 734 |
平成29年 | 18,146 | 992 |
平成30年 | 24,720 | 1,208 |
令和元年 | 32,711 | 1,366 |
出所:法務省ホームページ「休眠会社・休眠一般法人の整理作業の実施について」
毎年、数万社を解散させて大丈夫なのか?
「法務局が休眠会社を毎年何万社も解散させていたら、世の中から会社がなくなってしまうのでは?」と思う人もいるかもしれません。
安心してください。もちろん大丈夫です。
法務局がせっせと休眠会社を解散させていますが、その一方、毎年およそ8万~9万社の株式会社があらたに設立されています。
(ご参照:登記統計 商業・法人「種類別 株式会社の登記の件数」)
ですから、世の中にある株式会社の数が少なくなることはありません。
法務局による「みなし解散」作業の流れ
法務局による休眠会社の整理作業の流れは以下のとおりです。
- 休眠会社・法人の選び出し
↓ - 官報公告と法務局からの通知発送
↓ - 官報公告から2か月以内に登記または届け出がない
↓ - 職権による解散登記(みなし解散)
1.休眠会社・法人の選び出し
毎年の一定時期(例年10月頃)に法務局が休眠会社と思われる会社を選び出します。
対象となる会社・法人は次のとおりです。
- 株式会社
最後の登記から12年が経過している会社 - 一般社団法人・一般財団法人
最後の登記から5年が経過している法人
2.官報公告と法務局からの通知発送
法務局が選び出した休眠会社(休眠法人)に向けて、官報に広告するとともに、法務局から通知書を発送します。
法務局が発送する通知書の内容は、「法務大臣によって、あなたの会社は休眠会社として官報に掲載されました。事業を廃止していないのでしたら、官報公告の日から2か月以内に法務局に届け出てください。」というものです。
(法務局からの通知書の例)
3.官報公告から2か月以内に登記または届け出がない
官報公告から2か月以内に、登記をするか、事業を廃止してないのでしたら「まだ事業を廃止していない」旨の届け出を管轄の法務局にすることで、「みなし解散」を避けることができます。
少し前の記事になりますが、
2014年(平成26年)に法務局から約8万8千社の休眠会社に通知書を送ったところ、「あて先不明」として返送されたのは約6万社でした。
約68%の会社に通知書が届かなかったようです。
長期間登記されていない会社は、大半がもう営業していないことがわかります。
法務局から送られてきた通知書に対して、「まだ事業を廃止していない」旨の届出をした場合であっても、これまで怠ってきた登記申請を行わない限り、翌年も「休眠会社(法人)の整理作業」の対象となります。ご注意です。
そして、届出又は登記申請をした場合であっても、登記期間(2週間)が経過していたことが判明することよって、こんどは過料の対象となる可能性があります。
4.職権による解散登記(みなし解散)
休眠会社として整理の対象となっている会社が、所定の期限までに、これまで怠っていた登記をせず、「まだ事業を廃止していない」旨の届け出もしなかった場合は、法務局にいる登記官の職権によって解散登記がされてしまいます。
解散登記がされますと、会社の登記は監査役以外の役員(取締役・代表取締役・会計監査人など)は抹消されてしまいます。
継続の登記も可能(3年以内であれば)
法務局によって「みなし解散」の登記がされてしまっても、3年以内でしたら「継続」の登記をすることができます。
継続の登記とは、会社を解散前の状態に戻すことができる登記のことです。
うっかり「みなし解散」になった会社は復活の余地があります。
まだ続けたい会社の解散登記を放置していると不利益があります。
解散登記がされた状態だと、代表取締役の登記は抹消されてしまいますので、会社の印鑑証明書を取ることができません。
解散登記が載っている登記簿謄本(登記事項証明書)を銀行や取引先に見られると信用を失いかねません。
株式会社でしたら株主総会を開催して「会社を継続する」旨の決議をすれば、会社を解散前に戻す「継続」の登記を申請できます。ギリギリセーフですね。
ただし、継続の決議から2週間以内に登記しなければ、100万円以下の過料の制裁が下される可能性があります。
登記をしなければいけないイベントが発生したときは、早めに登記申請することをおすすめします。
まとめ
- 株式会社の役員任期は最大10年
→任期の確認は、会社の定款を見てください。 - 登記を12年間放置すると強制解散になるかも
→毎年、法務局による休眠会社の整理手続きがされています。 - 法務局による「みなし解散」作業の流れ
→届出の期限は官報公告の日から2か月以内です。
→みなし解散になっても、3年以内でしたら会社の継続はできます。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
関連記事
会社・法人登記申請の出し忘れに注意【過料の制裁あり】
司法書士の平均年収と本音を語ります【一攫千金ではなく地道に】
サラリーマンが副業として司法書士はできるのか?