【不動産×ブロックチェーン】司法書士に迫るバッドエンド・シナリオ
この記事の概要
不動産分野でのブロックチェーンの活用が、国内の複数のIT企業から提唱されています。国の規制改革会議の議題にもなっています。
不動産の世界にブロックチェーン技術が導入されると、今まで行われていた不動産取引の実務が大きく変わる可能性があります。
この変化は、司法書士が取り扱う不動産登記にもおよび、司法書士が介在しない「ブロックチェーンによる新しい不動産登記」が成り立つおそれがあります。
この記事の筆者について
どうもこんにちは、諌山(いさやま)です。
司法書士事務所を開業して今年で10年目に入りました。
今回は、不動産分野のブロックチェーン化にともなう司法書士のバッドエンド・シナリオについて書いていきたいと思います。
今すぐではありませんが、ブロックチェーンが採用される未来が訪れたとき、司法書士業界がどのようなバッドエンド(Bad Ending)を迎える可能性があるのでしょうか?
そのための対応策のヒントもあります。
ポイントは以下のとおりです。
- ブロックチェーンがどのようなものなのか、その概要を解説します。
- 複数のIT企業が不動産登記におけるブロックチェーンの活用を提唱している。
- ただしこれは、それぞれの企業で実証実験の段階です。
- そもそも国はブロックチェーンを採用するかどうかも未定です。
- ただし、このまま司法書士業界が手をこまねいていると、ブロックチェーンを活用した「司法書士抜きの新しい不動産登記制度」が完成する可能性があります。
- 司法書士は不動産登記制度の安定に寄与していることを発信、発言を続けていくことが重要です。
ブロックチェーンとは?
そもそもブロックチェーンって何でしょうか。少しご説明いたします。
一番有名なのがビットコインで使われていた技術です。
一か所のコンピューターが集中して管理するのではなく、多数の点在するコンピューターで分散してデータを管理する方法です。
ブロックチェーンの利点は、コンピューターが多数分散していますので、一箇所が壊れたくらいでは全体に影響は出ません。
分散したコンピューターが相互にデータをチェックしているので、一か所で不正があってもすぐにバレてしまいます。データの改ざんが非常に難しいシステムになっています。
日本国内での議論
ところで日本国内の議論はどうなっているのでしょうか。
2017年の「内閣府・規制改革推進会議 投資等ワーキング・グループ」(名前が長いですね)という会議で、不動産登記の見直しという議題が持ち上がっています。
そこで、ブロックチェーンを利用した不動産登記制度の説明がされていまして、登記手続きのブロックチェーン化などが提唱されています。
主な内容は以下のとおりです。
- 不動産の登記情報の無料公開
- デジタル化(ペーパーレス化)
- コスト削減(登録免許税を安くする)
- セキュリティーの向上(改ざんされない)
- ブロックチェーンを活用した情報連携による行政業務の効率化
- 省庁・地方自治体をまたいだ情報連携
- 法務省:土地の情報
- 国土交通省:不動産取引情報
- 市町村:住民登録と連携したシステム
【ご参考】
第11回投資等ワーキング・グループ議事録
第11回投資等ワーキング・グループ 資料3−2
第14回投資等ワーキング・グループ議事録
第14回投資等ワーキング・グループ資料資料3−1その1
IT企業による実証実験
その後、数社のIT企業より、ブロックチェーンを使った売買契約の記録および不動産登記の一元化が提唱され、独自に実証実験が行われている状況です。
しかも、興味深いところは、各企業の発表資料・プレスリリースを見ていると、司法書士の「し」の字も入っていないものがほとんどです。
ここが司法書士にとって恐ろしいところです。
そして、技術的にはどうやらブロックチェーンを不動産登記に利用可能なところまで来ています。
ただし、各社システムがバラバラであり、どの企業のシステムを使うのか、技術の規格化を進めていく必要あります。
各企業間で規格争いの真っ最中とも言えます。
【ご参考】
LIFULL、空き家問題にブロックチェーンを活用–権利移転記録の実証実験を開始
ブロックチェーン技術の現状と、今後の不動産業界に及ぶ影響とは
不動産のブロックチェーン登記(権利記録)、日本国内でも大手司法書士法人が運用開始
今後の見通しはどんな感じか
現在の法律では、法務局という役所が不動産登記・会社や法人登記の業務を取り扱っており、法務局のコンピューターで一元管理されています。
これをブロックチェーンに置き換えるとしても、法律の改正が必要になってきます。
その議論はまだ全然始まっていません。
したがって、技術的な規格化が熟すまで数年以上、その後の法改正の議論でまた数年以上かかるお話になります。
そもそも、国としても導入するかどうかも決まっていませんし、導入するとしても当分先の話になります。
海外の具体例を見てみます
海外で不動産登記などにブロックチェーンを活用している国を見てみます。
1.ドバイ(UAE)
2018年にドバイの一部の地域限定で、ブロックチェーンを使った不動産登記システムの稼働が開始しています。
2020年を目標として、ドバイ全土で土地の登記と会社の登記をブロックチェーン化を進めています。
2.スウェーデン
2016年にテストを開始。
2017年以降、段階を重ねて実証実験を行っていまして、今後の本格稼働を目指しています。
3.その他の国
その他、アメリカの一部の州、ジョージア(旧・グルジア)、ウクライナなどでも導入に向けた動きが進んでます。
司法書士のバッドエンド・シナリオとは
バッドエンド・シナリオ
何だか前置きが長くなりましたが、司法書士にとってのバッドエンドシナリオとはどのようなものでしょうか。(以下はあくまでも未来予想です。)
IT企業が開発したシステムが新しい登記申請システムとして採用され、不動産登記の業務が民間委託される。新しいシステムは司法書士抜きの不動産取引が標準仕様となっている。
この場合、法務省の現行の登記システムは廃止されます。
たとえば、不動産の売主と買主が取引内容をパソコンに入力して承認すると、不動産売買の記録と、不動産登記が同時に実行されて、しかも売買代金の支払いは仮想通貨(トークン)で完了してしまう(!)
司法書士がいなくても完了してしまう、司法書士にとっては恐ろしい未来ですね。
この場合、ボトルネックになる部分
ただし、ここでボトルネックになる部分があります。(これももちろん未来予想です。)
不動産を買った人(買主)に、銀行や信用金庫などのような金融機関が資金の貸し出しをするケースです。
金融機関は確実に登記してもらえないと融資(貸し付け)をしませんから、この部分でも司法書士がしっかり関与し続けることで存在感を示すことができる。
ただし、金融機関も直接ブロックチェーンのシステムにアクセスできる仕様になったら、おしまいかもしれません。
司法書士の存在意義はどうなるのでしょうか
ただし、司法書士の存在意義は「書類だけじゃない部分がある。」ということをお伝えしたいです。
その一方で、「そんな実績よりも、利用者にとって便利なシステムの方が大事じゃないか?」という皆さまのご意見が出てくるかもしれません。
そこで司法書士の仕事の中身というか、その機能について少しお話しした方がいいと思います。
司法書士の仕事の中身を分けて考えると、次の二つの部分に分かれると思います。
書類の作成や確認
- 登記申請書の作成
- 必要書類が全部確かに揃っているか
これらは書類作成や、書類確認の部分で、テクノロジーにより取って代わる可能性がある部分です。
本人確認・意思確認
- 登記申請をする人の「本人確認」の部分があります。
- たとえば不動産の売主や買主が、本当にその本人であるか間違いないかの確認です。
- たとえば不動産の売主や買主が、本当にその本人であるか間違いないかの確認です。
- 「意思確認」の部分
- 売主・買主は売買対象となっている不動産を売ること、買うことのそれぞれの意思を確認することです。対象者が高齢者で、慎重な対応が求められる場合があります。
こういった部分も司法書士が責任を持って対応しています。
司法書士が発言、発信を続ける
繰り返しになりますが、司法書士の存在意義は「書類だけじゃない部分」があります。
これからも司法書士が登記に関わっていくことの重要性について、発言、発信をやり続けることが重要だと思っています。
最後にまとめたいと思います
- 複数のIT企業が不動産登記におけるブロックチェーンの活用を提唱している。
- ただしこれは、それぞれの企業で実証実験の段階。
- そもそも国はブロックチェーンを採用するかどうかも未定。
- ただし、このまま司法書士業界が手をこまねいていると、ブロックチェーンを活用した司法書士抜きの新しい不動産登記制度が完成する可能性あり。
- 司法書士は不動産登記制度の安定に寄与していることを発信、発言を続けていくことが重要。
新しい制度・システムを導入するかどうか、決めるのは最終的には政府や国会になります。
利用者の利便性に配慮しながら、司法書士は最大のステークホルダーの一員として、その存在意義を主張しながら、情報発信を続けていくことが大切だと思っています。
ありがとうございました
というわけで、今回は「司法書士のバッドエンド・シナリオ」について述べました。
今回も最後までご覧いただきましてありがとうございました。
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