司法書士はどのようなケースで懲戒を受けるのか、過去の事例をもとに解説します【ほとんどは確信犯です】
今回は、司法書士の懲戒(ちょうかい)についてお話しいたします。
懲戒というのは、司法書士が何かやってはいけないこと、つまり法律違反をしたときに、法務大臣から下される行政処分のことです。
弁護士でよく聞くのは、依頼者から預かっているお金を着服してしまって、最終的に警察に逮捕されてしまう、そのようなニュースをたまに聞きますよね。
司法書士でも、そのようなケースはありますが、それ以外にも世間的にはあまり知られていない、いろいろな懲戒の事例があります。
今回はどんなことで司法書士は懲戒を受けているのか、主要なケースをもとに司法書士である筆者が解説します。
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この記事の筆者
司法書士事務所を開業して今年で10年経ちました。
日々の業務をおこなっていて、感じたこと考えたことをブログで述べています。
この記事の概要
どんな事例で懲戒処分を受けてしまうのか?
いろんな懲戒の事例があるのですが、あまり特殊なものだと、狭い司法書士業界では誰のことかすぐにわかってしまいます。
ということで、わりとありがちな3つのケースをご紹介したいと思います。
(1)依頼者の本人確認不足で登記申請してしまった
司法書士は依頼者からお仕事を受けるときは、「依頼者の本人確認」と、「依頼内容の確認」の二つの確認作業をします。
これは司法書士に限らず、資格を持った法律の専門家はおこなう作業です。
司法書士が、依頼者の本人確認や意思確認をしていない。そんなことがあるのか?ということですが、残念ながらそんな事例があります。
事務所の運営が他人に丸投げ
よくあるのが、事務所の業務が、他人任せになっていることがあります。
司法書士が自分の名前で運営している事務所だけど、司法書士本人は事務所に出てくることはほとんどなく、日常業務は完全に事務員に丸投げになっているような場合です。
もっとひどいケースだと、司法書士ではない者が事務所の運営を主導している場合もあります。
司法書士ではない「他の士業」に任せっきりであったり、コンサルティング業者の言いなりになっているようなケースもあります。
このような場合、具体的な被害はどのようなものになるかといえば、主に不動産の登記で発生します。
- 不動産の売買の場面で、売主・買主の双方の意思確認していなかったため、想定外の登記をされてしまった。
- 売主がすでに亡くなっているのに、そのことを確認しないまま抵当権抹消の登記をしたケース。
このようなことばかりやっていると、依頼者からクレームが出ます。
でも、もともと無責任な司法書士に何を言っても、大したことはしてくれませんので、結局のところ、司法書士の加盟団体である司法書士会に苦情が行くことになります。
その時点で問題が明らかになって、最終的に懲戒処分につながるケースがあります。
もちろん、ほとんど全ての司法書士はきちんと自分自身で、依頼者の本人確認や意思確認をおこなっています。
それでも、本当にごく少数ですが、不真面目な資格者が法令違反をしてしまうことで、懲戒処分を受けてしまうことがあります。
他人に事務所の運営をまかせきりにしていた代償として、戒告や一定期間の業務停止を受けることが多いです。
(2)140万円超えた紛争事件で代理行為してしまった
お金のことで争いになってしまったときに、紛争解決のために弁護士に依頼する方も多いと思います。
ちなみに紛争解決は、司法書士でも業務として取り扱っている事務所があります。
法務大臣の認定を受けた司法書士であれば、簡易裁判所が取り扱うような比較的低額の事件であれば、依頼者の代理人として交渉や裁判などの活動ができます。
比較的低額であればという条件付きですが、これがいくらなのかといえば、現在の法律では140万円以下になっています。簡易裁判所が取り扱う事件が140万円以下だからです。(記事執筆時点)
過払金の返還請求の金額が140万円を超えてしまった
今でも、テレビやラジオでさかんに宣伝している司法書士事務所があります。CMをお聞きになったことがある方もいるかもしれません。
CMを打っている事務所といえば、たいていは「過払金の返還請求」を業務にしている事務所です。
過払金とは、消費者金融とかカード会社に以前高い利息でお金を借りていた人が、払いすぎた利息を返還してもらえるお金のことです。
昔は消費者金融とかカード会社からお金を借りると、とても高い金利を支払っていました。
年利40%とか29%とか、そんな時代がありました。
筆者のことになりますが、今から10年くらい前に、過払金の返還請求ばかり取り扱っていた司法書士事務所に勤めていたことがあります。ですから、過払金の返還請求を業務にしている事務所のことはよくわかります。
過払金は、返還請求先であるカード会社一社あたり、大体140万円以内の金額に収まることが多いです。
もともと借りている元本が、一社あたり多くても50万円くらいですから、いくら高金利を支払っていたとしても、カード会社一社で過払金が何百万円になることはそんなにありません。
でもたまに200万円近くの過払金が一社で出てしまうことがありますね。
司法書士がメッセンジャーになりきれない
過払金の話ばかりしましたが、過払金でなくても、人と人の間のお金の貸し借りでも、「200万円を貸したけど全く返してくれない!」そんなケースもあります。
そうなると、司法書士が取り扱える140万円という金額を超えていますので、司法書士はいくら依頼者に頼まれても、その依頼者の「代理人」として活動することはできません。
じゃあ、そんなときはどうするのかと言えば、司法書士は代理人ではなく、あくまでも「依頼者のメッセンジャー」という立場になります。
相手とは交渉はしないけど、「お金を返してください。」というメッセージを、文書とか電話で伝える業務に切り替えます。
この場合、司法書士は依頼者のメッセンジャーに過ぎませんので、140万円を超えていてもかまわないでしょ、というロジックですね。
でも、先方とのやりとりの中で、ついつい交渉してしまうことがあるんですよ。
そうなるとあとで相手方から、「この司法書士は140万円を超えた金額なのに、代理人として交渉して、和解して、返還されたお金を受け取っているじゃないか?」そう言われることがあります。
そんな場合に、法律違反には違いありませんので懲戒を受けることがあります。
依頼者の全員が法律のことに詳しいわけではありませんので、その場ではなんとかなっていたとしても、後になって、第三者の法律専門家から指摘を受けて、その問題が明らかになってしまうことがあります。
処分としては、戒告が多いですが、次の項で述べるように司法書士がお金を着服していたようなケースだと、さらに重い処分を受けることになります。
(3)お金を依頼者に返さない
依頼者から預かっているお金をなかなか返さなかった、あるいは、自分で使ってしまったので依頼者にお返しするお金がなくなりました、というケースもあります。
どんな場合にそんなことになるのかといえば、消費者金融から過払金が戻ってきたけど依頼者に返さないケース、登記費用を預かったまま登記をせずにお金だけ使ってしまったケースなどあります。
最近だと、成年後見人が依頼者のお金、預金とか貯金を自分のために使ってしまったケースもあります。
成年後見というのは、依頼者本人が認知症などになってしまって、自分で財産管理や身の回りのことができなくなったので、成年後見人に財産管理などをおまかせする制度のことです。
成年後見人は家庭裁判所が選んでその人に任せますので、裁判所の監督のもとにあるのですが、成年後見人がやっていることをいちいち監視していません。
このような成年後見人がお金を着服する場合だと、その金額は数百万円以上とけっこう高額になります。
もちろん、どのケースも横領という立派な犯罪行為ですので、警察に捕まって懲役などの刑罰を受けることになります。
こんな場合に司法書士が受ける懲戒処分ですが、着服した金額の多さや、そのあとお金を依頼者に返したかどうかで、処分の内容も異なってきますが、大半が長期の業務停止や業務禁止になります。
どんな懲戒処分があるのか?懲戒を受けるとどうなる?
懲戒処分の種類
司法書士の懲戒処分は、つぎの3種類があります。順に解説します。
- 戒告(かいこく)
- 2年以内の業務停止
- 業務禁止の3つです。
(司法書士法人という法人形態だと、解散という処分もあります。)
戒告(かいこく)
戒告は一番軽い処分です。注意を受けるという処分ですね。
依頼者の被害がない、被害が小さい場合は、この処分ですむことが多いです。
ところが、被害者がいない場合でも、戒告の処分を受けることがあります。
たとえば、司法書士として受けなければいけない研修をぜんぜん受けない人が、司法書士会の会則違反ということで処分を受けることがあります。
2年以内の業務停止
業務停止というのは、「業務停止を受けた期間中は、司法書士として仕事をしてはいけません。」という処分のことです。
業務停止はけっこう厳しい処分です。
単にその期間中、業務をしなければいいのかといえば、そんなことでは済みません。
- 事務所としての機能を「全てストップ」することが求められます。
- 事務所の電話で受け付けすることもできなくなります。電話に出ることができなくなるのです。
- 事務所の看板や表札も、撤去するか目隠しすることが求められます。
と言うわけで、本当に業務停止の期間が終わるまで何にもできなくなります。
その結果どうなるかと言えば、業務停止が長期間になると、お客さんが他の事務所にどんどん逃げてしまい、業務を再開しても依頼者がいなくなってしまいます。
そんなことから、業務停止は結構厳しい処分であるとお分かりいただけると思います。
業務禁止
業務禁止は最も厳しい処分です。
簡単に言いますと「司法書士業界からの永久追放」ですね。
業務禁止を受けると事実上二度と司法書士として登録して業務することは認められていません。
この処分を受ける司法書士は、これまで何回も業務停止を受けてきたような人が、さらに法律に違反することをしてしまい、とうとう業務禁止の処分を受けてしまうような場合が多いです。
ということで、一つの悪事で業務禁止になることはあまり見かけませんが、例外として、高額の横領をやってしまった場合など、その罪がとても重たいときには、一発退場の業務禁止になることもあります。
懲戒処分を受けると公表されてしまいます
懲戒を受けると、単に処分を受けるだけではなく、世間にもその事実が公表されてしまいます。
公表される方法は、以下の3種類です。
- 官報に掲載される
- ホームページに公表される
- 司法書士の業界紙に載る
この3種類で公表されます。
官報に掲載される
懲戒処分を受けると、官報に司法書士の氏名が載ってしまいます。
官報は国が発行している日刊の広報紙です。
企業の決算公告とか、成立した法律が公告されたりするもので、誰でも見ることができます。
インターネット版の官報もあります。(閲覧無料)
一般の方は官報を読むことはないかもしれませんが、印刷物として懲戒処分のことは残りますので、心理的にはしんどいですね。
関連リンク:インターネット版官報
日司連、司法書士会のHPに掲載される
司法書士会や日司連のホームページにも載ります。
こちらは、それぞれのサイトで簡単に見ることができますので、懲戒処分を受けて載ってしまうとちょっと格好悪いです。
あと、
「月報司法書士」という業界紙にも載ってしまいます。
月報司法書士は、司法書士会に入っている司法書士のもとに毎月送られてきます。
本屋さんでは売られていませんので、業界の外の方が目にする機会はほとんどないと思いますが、そのような雑誌にも懲戒事例として、懲戒処分を受けた司法書士の名前と処分内容が載ってしまいます。
筆者も載らないように、気をつけて業務をやっていきたいと思います。
まとめ
というわけで今回は、司法書士の懲戒について
ということをお伝えいたしました。
この記事を最後までご覧いただきましてありがとうございました。