司法書士試験合格は人生を変えられるのか?現役司法書士が考えてみました
今回は、「司法書士試験に合格すると人生が変わるのか?」という疑問について、現役司法書士である筆者の考えをお話ししていきたいと思います。
先に、テーマの答えを言いますと「人生の選択肢を増やすことができる」と思っています。
では、どのような選択肢が増えるかといえば、法律上できることが増える、そして職業の選択肢が増える、このような2つのポイントがあると思います。
この記事の筆者
司法書士事務所を開業して今年で10年経ちました。
日々の業務をおこなっていて、感じたこと考えたことをブログで述べています。
この記事の概要
法律上できることが増える
司法書士試験に合格して、司法書士として登録すると法律にもとづいてできることが増えます。
「法律上できることが増える」というのはどういうことでしょうか?
司法書士ができる業務のうち主なものは、次のとおりです。
- 不動産登記や会社登記の手続きを、報酬をいただいて、お客さんに代わっておこなうことができる。
- 裁判所に提出する書類を作成するようなお仕事を、報酬をいただいておこなうことができる。
もちろんこれだけではありません。
司法書士試験に合格して、さらに法務大臣の認定を受けることもできれば、仕事の幅はさらに広がります。
- 簡易裁判所に限りますが、裁判や調停の手続きを依頼者の代理人として活動することができるようになります。
↑この業務のことを「簡裁代理関係業務」と呼ぶこともあります。債務整理の業務をやりたいのでしたら必須の認定資格ですね。
これらが法律上できることが増えることの中身になります。
司法書士の業務は、国に認められた独占業務になりますので、資格を持っていない人が勝手にやると、法律違反になります。
司法書士でない者が、資格を持たずに司法書士業務をするとどうなるのかといえば・・・
懲役とか罰金といった刑罰を受ける場合があります。モグリ行為は禁止されています。
このように、司法書士という資格を取得すると法律上できることが増えます。
司法書士試験に合格して人生を変える一歩をはじめることができます。
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職業の選択肢が増える
もうひとつの「職業の選択肢が増える」というポイントです。
司法書士試験に合格すると人生の選択肢が変わります。
大きく分けて4つの選択肢が現れます。
もちろん、以上の4つが全部ではないかもしれませんが、主要な選択肢になります。
(1)司法書士事務所に司法書士として就職
司法書士の資格者の求人はいろんな司法書士事務所が常に出しています。いつも司法書士の人材募集をしています。
なぜいつも人材募集しているのかといえば、司法書士事務所が登記手続きや裁判手続きの業務をおこなうために、司法書士の資格を持った人が欠かせないからです。
資格を持った人が欠かせない割には、司法書士試験の合格者は毎年数百人しかいません。
たとえば、2021年度(令和3年度)の合格者数は613名です。
そこで、規模の大小にかかわらず、どの事務所も司法書士の人材募集には手間ひまをかけています。
事務所に司法書士が欠かせない理由
司法書士がどうして欠かせないかといえば、そのメインとなるお仕事で司法書士の資格が必要な場面があるからです。
どんな場面かといえば、不動産取引の代金決済の立ち合い業務になります。司法書士の主要なお仕事のひとつです。
不動産取引の代金決済の立ち合いのことを、略して「決済」と言います。
これは何かといえば、不動産の売買の最終場面になりますが、代金の支払いと同時に不動産の所有名義を買主名義に移転する登記を申請することです。
具体的には次のような流れになっています。
銀行とか不動産会社の会議室とか応接ブースのような小部屋に、不動産の売主さんや買主さん、仲介会社の方達が集まります。
↓
そして、司法書士は、不動産の所有名義の移転登記をするために必要な書類を売主さんと買主さんからお預かりして、書類がきちんと揃っているか確認します。
↓
そして登記の必要書類が揃っていることを司法書士が売主さん買主さん、仲介会社の担当者に告げますと、代金の支払いがおこなわれます。
↓
不動産の決済が終わったあと、司法書士は法務局に所有名義の移転登記を申請します。
これが「不動産取引の決済の立ち合い」のお仕事になります。
しかも、決済の立ち合い業務は、司法書士でないとできないことになっています。
司法書士の資格を持っていない事務員だけで決済に立ち会うことを、全国の司法書士会がかたく禁止しています。
ということは、不動産会社から決済業務の依頼がたくさある大きな事務所では、司法書士の手持ちの資格者の数が足りないと、数多くの決済業務をこなすことができなくなり、困ってしまいます。
移籍・独立する司法書士も多い
司法書士はわりと離職率が高いお仕事で、他の事務所に移籍してしまったり、独立開業するために事務所を辞めてしまう司法書士も少なくありません。
だから、いつもどこかの司法書士事務所が人材募集しているのです。
司法書士のお仕事は不動産取引の決済だけではありません
「不動産取引の決済の立ち合い」の業務のほかにも、「相続登記」とか「商業登記」のお仕事もあります。
「債務整理業務」を取り扱っている事務所もあります。
- 相続登記とは、遺産である不動産を相続人が受け継ぐ登記のことです。
- 商業登記とは、株式会社のような会社や、一般社団法人のような法人の設立や役員変更などの登記のことです。
- 債務整理業務とは、簡単にいえば借金整理のお手伝いをする業務です。過払い金返還請求・自己破産・個人再生・任意整理という借金整理を依頼者のためにおこなうお仕事になります。
依頼者の本人確認は司法書士がおこなう必要がある
登記業務や債務整理業務でも、依頼者からお仕事を引き受けるときには、依頼者のご本人確認をすることが求められています。
具体的に何をするのかといえば、依頼者がご本人であることを運転免許証やマイナンバーカードなどで確認することです。
それだけではなく、依頼内容の確認とか、その依頼は依頼者本人の意思に基づくものであるか、そこも確認事項になってきます。
依頼者の本人確認は、依頼を受ける司法書士が行ってくださいという決まりになっていますので、業務量が多くて忙しい事務所になると、司法書士の人数がそれなりに必要になってきます。
というわけで、司法書士試験に合格すると、資格者を募集している司法書士事務所がたくさんありますので、自分に合う事務所を見つけて、そこに就職するというルートができます。
司法書士事務所に勤めたときのお仕事の内容については、別の記事でもご紹介していますので、よろしければそちらもご覧ください。↓
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(2)独立開業して自分の事務所を開く
「独立開業して自分の事務所を開く」という選択肢ができるというお話です。
司法書士は自分の事務所を持って、司法書士として取り扱うことができる独占業務を、依頼者から報酬をもらって行うことができます。
先ほどの「司法書士事務所に司法書士として就職」というお話の中で、不動産取引の決済立ち合い業務、相続登記、会社の登記、債務整理業務といった業務があることをお伝えしました。
独立開業したときは、今度は自分でそれらの業務を行います。
ですから、依頼者の本人確認のようなものは事務所のオーナーである司法書士が行います。
あとは、いただいた依頼をきちんと処理できるスキルの問題と、もうひとつ大切なことは、お仕事の依頼をどのように増やしていくかという問題です。
依頼をこなすスキルの問題
依頼をきちんと処理するためのスキルの問題は、これまで自分が学んだこと経験したことを総動員して依頼に答えていくことになります。
それでも、わからないことが出てきたら、たとえば次のような手段を使って、解決法を見つけていきます。
- 実務書のような専門書籍を調達して徹底的に調べる。
- 役所に的確な質問をして解決策を探る。
- 仲の良い同業者(司法書士)にアドバイスをもらう。
このように試行錯誤しながら、少しずつ実力をアップしていくことで解決していきます。
仕事の依頼をどのようにして増やすのか問題
お仕事の依頼をどのように増やしていくのか問題は、開業した地域や、取り扱っていきたい業務の種類によってやり方は異なってくると思います。
リアルなオフラインの営業方法の例
- 不動産登記のお仕事を増やしたいのでしたら、地域の不動産会社にご挨拶をして、司法書士としての顔を売っておく方法があります。
- 会社の登記を増やしたいのでしたら、地域で開業している税理士、弁護士の先生に、こちらからご挨拶しておいて、登記の仕事を頼める存在として知ってもらうという方法もあります。
ホームページ・広告による集客
- 事務所のホームページ(HP)を作って、HPを見た方からお問い合わせをもらう方法があります。
- 資金に余裕がある事務所でしたら、広告を打ってお客さんのお問合せを集める方法もあります。
クラウドソーシングサービスによる集客
最近でしたら、クラウドソーシングサービスを利用してお仕事を依頼する方も増えてきました。
クラウドソーシングサービスとは、簡単にいうと、インターネット上のお仕事マッチングサイトです。
自分の事務所を登録してもらって、お仕事の依頼を受けることができるサービスです。
クラウドワークス、ランサーズといったサイトが有名ですね。
このようなサイトに登録して、法律関係の記事や文章のライティングなどのお仕事の依頼を受ける方法もあります。
いろんな司法書士が登録していますので、ちょっと興味がある方は、一度そのようなクラウドソーシングのサイトを見てみると面白いかもしれません。
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日本最大級のクラウドソーシング「クラウドワークス」
(3)資格予備校の講師
「資格予備校の講師」になる人もいます。
資格予備校の代表例としてLEC(レック)とかTAC(タック)がありますが、そのほかいろんな資格予備校があります。
いずれの資格予備校でも共通点がありまして、資格予備校が提供している司法書士試験対策の講座って、その講師はみんな司法書士ですね。
つまり、司法書士試験に合格すれば、資格予備校の講師になるというルートもあるということです。
ただし、日本全国の司法書士の中で、資格予備校の講師だけをやっている方(専業講師)はとても少ないです。
司法書士だからといって誰にでもできる仕事ではない
最近では、予備校の教室で受講者と対面しながら講義するだけではなくて、どの資格予備校もオンラインを使った動画でサービス提供していたりしますが、いずれにしても、多数の受講者に向かってお話ができる度胸というか能力が必要になります。
司法書士だからといって誰にでもできる仕事ではない、と思っておいた方が良いですね。
専業でやっている講師もいますが、たとえば私の知り合いの司法書士の中には、兼業で資格予備校の講師をしている方もいます。
兼業ですから、自分の司法書士事務所を運営しながら、兼業として講師もやっているということですね。
とういうことで、司法書士試験に合格したら講師をやってみたいという方は、専業・兼業のいずれも選択肢とすることができます。
講師を募集している資格予備校に応募して、無事に採用されると、資格予備校の講師として活躍することができます。
頑張ってください。
(4)司法書士登録しない生き方
司法書士に合格したけど司法書士として登録せずに、ふつうに会社で働いている人もたくさんいます。
司法書士になるための試験勉強をしている人の中には、試験に合格したのに司法書士にならない人の存在を不思議に感じる方もいるかもしれませんが、実際にはそのような方はたくさんいます。
ちなみに、筆者も司法書士試験に合格してからは、会社でふつうにサラリーマンやっていました(9年間)。
無理して司法書士になる必要はないかも
現在されているお仕事で食べていけるのでしたら、何がなんでも無理して司法書士になる必要はないということです。
会社員をされているのでしたら、司法書士試験に合格したことがある「法律に詳しい人」という、ちょっとだけ特別な地位をゲットできます。
さらに、勤めている会社で何らかの法律手続きをする必要があるときに、その手続きがスムースに実行できるようにアドバイスなんかしてあげると、社内の方に喜んでもらえるかもしれません。
企業の法務部への転職もアリ
「司法書士試験の合格者」という実績を持ちながら転職活動をしてみると、企業の法務部とか総務部といったところに転職できる可能性も上がります。
というのも、司法書士という資格は、法律系資格の中ではかなりの難関です。
企業の法務部門に所属するような方でしたら、司法書士試験の難しさと合格者の能力の高さを理解しています。
ということで、法務部・総務部あたりへの転職を狙って、法律系の国家資格を取得するというのもアリだと思います。
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まとめ
今回は、司法書士試験合格は人生を変えられるのか?というテーマで、
という2つのお話をしました。
この記事を最後までお読みくださいましてありがとうございました。
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