司法書士の将来性って大丈夫?生き抜くためのポイントをご紹介します
「司法書士試験に合格しても、司法書士で将来食べていけるのか?」
「司法書士の資格は将来性があるのか?」
「司法書士の仕事はAIに取って代わられるのではないのか?」
今回は、こんな疑問にお答えします。
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この記事の筆者
司法書士事務所を開業して10年以上経ちました。
日々の業務をおこなっていて、感じたこと考えたことをブログで述べています。
この記事の概要
相続登記の義務化
相続登記が義務化されましたので、近い将来には相続登記のお仕事が増えることが見込まれています。
報道などを見てすでに知っている方も多いと思います。
2021年4月に国会で不動産登記法という法律の改正案が成立しまして、相続登記が義務化されることが決まりました。
でもすぐに相続登記が義務化されるわけではなくて、2024年をめどに実施される見込みになっています。
その内容を簡単にお話ししますと、土地や建物といった不動産を持っている方が亡くなりましたら、その相続が発生したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならなくなります。
所有者不明土地問題
どうして、このような相続登記の義務化という制度が導入されるのかといえば、日本全国に、相続をしていない土地がたくさんあることが分かってきたからです。
これは、国の機関である国土交通省や総務省の調査結果(地籍調査)からわかってきたことです。
2016年(平成28年)に、登記簿だけでは所有者の所在が不明だった土地がおよそ20%あるという結果が出ています。
土地の所有者が不明である理由
所有者が不明である原因は、大きく分けて3つあります。
日本全国の所有者不明土地およそ20%の内訳はこんな感じです。(↓)
①相続登記をしていない(およそ13.4%)
②土地を売買したのに買主に所有名義を移していない(およそ0.2%)
③土地の所有者の住所が変わったのに住所変更登記をしていない(およそ6.4%)
ということで、相続登記をしていない土地が13.4%を占めています。
相続登記されていない土地の数はおよそ2400万筆
相続登記をしていない土地がどれくらいの数になるのか、推計してみます。
まず、日本全国に存在する数の土地はおよそ1億8000万筆あります。
総務省が公表している統計のなかに「固定資産の価格等の概要調書」というものがあります。
2020年度の統計を見ると、日本全国にある土地の数(筆数)はおよそ1億8000万筆あるそうです。
およそ1億8000万筆のうち、相続登記をしていない土地がおよそ13.4%です。
計算すると次のようになります。
1億8000万筆✖️13.4%≒(およそ)2400万筆
というわけで、日本全国にある土地のうち、相続登記をしていない土地の数はおよそ2400万筆ということになります。
これがどれくらいすごい数字なのかといえば、たとえば、2020年度の相続登記の申請件数を見ると441万筆でした。
1年間の相続登記の申請が441万筆で、それに対して、相続登記がされていない土地がおよそ2400万筆ということですから、5年分以上の計算になります。
それでも相続登記をしない人はいるはず
ただし、相続登記が義務化されても、それでも相続登記をしない人たちはいると思います。
例えば、利用する価値がないような土地とか、お値段がつかないような土地なのに、手間ひまかけて相続登記するのは面倒だと考える人もいるはずです。
あるいは、何代にもわたって相続登記をせずに放置されている土地だと、そもそも自分が相続人であることがわかっていないケースもあると思います。
というわけで、新しい法律を作って相続登記の義務化を進めたとしても、それでも放置されたままになる土地は出てくることは予想できます。
とはいえ、およそ2400万筆はあるわけですから、相続登記の件数が増えることは見込まれますので、これは司法書士の将来性にプラスになるお話しです。
司法書士の仕事はAIではなくならない
AI(人工知能)技術が進化すると、司法書士の将来性にも影響があるのでは?というお話しです。
この疑問について、現時点での答えは次のとおりです。
AI技術によって、司法書士のお仕事がなくなるような事態になっていません。
ただし、一部の登記のお仕事では、半自動的に書類を作成できる「Webサービス」を提供するIT企業がいくつか出てきました。
半自動的な書類作成Webサービスとは?
会社登記と相続登記について、IT企業による登記申請書類の作成サービスが提供されているます。
今のところ会社登記についてはおよそ3社で、相続登記についてはおよそ2社くらいがWebサービスを展開しています。
「半自動的」ですから、あなたが寝ていても作ってくれるサービスではありません。ある程度は自分で情報をパソコン画面で入力する必要があります。
そして、書類作成の援助はしてくれますが、作成した登記申請書を法務局に提出した後のフォローはほとんど望めません。
なぜなら、手取り足取りのリーガル・サービスを民間企業が提供してしまうと、司法書士法という法律に違反するおそれがあるからです。
その代わり利用料金は安く設定されています。
ですから、自分で書類を全部作って登記申請するほどの自信はないけど、法律専門家に支払う報酬は節約したいと考えている方には向いているサービスかもしれません。
Webサービスを提供している会社(リンク)
AI-CON登記
会社設立freee
企業法務にもリーガルテックの波
企業法務のお仕事といえば、たとえば「契約書のレビュー」のような業務がありますが、AIによって半自動化できるようなサービスがこの分野にも現れています。
リーガルテックとも言いますが、リーガルサービスをテクノロジーで自動化・簡略化してさらに経費も削減しようという流れが現れています。
企業の規模にもよりますが、そこそこの規模になってくると、その企業は取引先との間で毎月膨大な数の契約書を交わしています。
取引先との間で交わすことが多い契約書の例(↓)
- 業務委託契約書
- 取引基本契約書
- 請負契約書
- 秘密保持契約書
- 売買契約書
- 賃貸借契約書
(↑)このような書類は、わりと決まり決まった文言で作られていますが、取引先によって微妙に内容が違ってくることがあります。
とはいえ、契約書ですから一度契約を締結すると結んだ約束は守らなければいけませんので、締結前に契約条項をチェックする手間が発生します。
企業間の取引では、契約書の作成やチェックが日常的に行われていますが、この作業を会社の担当の社員が人の目で行うと時間がかかります。
だからといって、外部の法律事務所など専門家にチェック作業を頼んでいると、安心感はもちろん得られますが、その代わりに報酬の支払いが必要になってきます。
そこで、定型的な契約書の作成をコンピューター技術で半自動化して、時間とお金の節約ができないか、というニーズがあるわけなのです。
IT企業がひしめき合うリーガルテック
企業間取引で使われる契約書のレビューというニーズについて、いくつかのIT企業がWebサービスを提供しています。
今のところ5社くらいが、ひしめき合っています。
リーガルテックの主戦場はここですね。
契約書の作成やレビューの分野は、長い期間の契約が見込めますので、各社がしのぎを削っています。
(その一方で、登記の仕事は単発業務になりますので、契約期間は短いのです。)
ちなみに、このWebサービスの利用はプランにもよりますが、基本的には毎月数万円程度から利用できる定額制です。
ですから、専門性の高い社員を育てたり、外部の専門家に頼むより比較的安い費用でサービスを利用できます。
Webサービスにもデメリットはあります
もちろんいいことばかりではありません。
Webサービスを提供している会社はIT企業です。
法律事務所とか司法書士事務所が作る場合とは異なり、Webサービスで作成した契約書にあとで問題が見つかったとしても、文句を言うことができる相手はいません。
その点はリスクとリターンを考えたほうがいいかもしれません。
たとえば、金額が小さい契約の場合だけWebサービスを利用して、その一方で、金額が大きな契約・複雑な契約書のときは専門家に相談するなど、シチュエーションごとに自分で選んでいくことになると思います。
司法書士業務への影響は限定的
司法書士のお仕事について、AIとかリーガルテックの影響がどれくらい出ているかといえば、まだまだ限定的です。
たとえば、不動産登記はどうでしょうか?
そもそも、不動産売買の場面を思い浮かべると、ほとんど全ての不動産会社は、売買契約書はいまだに紙でできた契約書を使っています。
司法書士は、不動産登記をするための書類を半自動的に作成できる司法書士専用ソフトを実はすでに使っていますが、登記申請はやっぱり司法書士自信が責任を持っておこなっています。
きちんとした不動産の売買の現場であるほど、お客さんがセルフで登記するような場面はほとんどありません。
しかも、不動産取引とか不動産の登記をフル自動化するような業界全体の動きもまだ見られないですね。
会社の登記はどうでしょうか?
今はネットで色んな情報が広まっていますので、自分で登記する人が増えるかもしれません。それでも司法書士事務所への影響は限定的だと思います。
なぜなら、司法書士事務所のよくある収益構造を見てみると、不動産登記の業務の割合が大半です。
公表されているデータを見てみると分かります。
たとえば、司法書士白書という、司法書士の団体が出版している統計資料があります。
司法書士白書の中で「司法書士一人当たりの登記事件の件数」という統計があります。
2018年度のデータによると、司法書士1人あたりの不動産登記の件数はおよそ355件(およそ87%)に対して、商業・法人登記はおよそ55件(およそ13%)でした。
ということで、不動産登記の件数が圧倒に多いですね。
もちろん、司法書士事務所を置いている地域(都市部・郊外)によって、そのお仕事の比率は違ってくるかもしれませんが、日本全体でならしてみると不動産登記の件数が圧倒的に多いです。
ということで、登記のお仕事がAIにとって変わられるまでは、まだまだ年月がかかりそうですので、司法書士の仕事の増減について過剰に心配する必要はないということです。
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司法書士業務から飛び出たお仕事
司法書士のお仕事といえば「登記」とか「裁判業務」と思われがちなのですが、それだけではありません。
もちろん登記業務は司法書士の根っことも言える業務ですが、その延長線上にも司法書士が活躍できるフィールドはあります。
このトピックでは、司法書士業務の延長線上にあるお仕事についてお話ししたいと思います。
ここでは、司法書士の将来性に関わる3つのフィールドについて解説します。
(1)相続業務
相続業務というのは、亡くなった方の遺産を相続人の名義に移す手続きをサポートするお仕事です。
相続財産の中に土地や建物といった不動産があれば、もちろん相続登記をすることになります。これは司法書士が取り扱っているよくあるお仕事の一つになります。
でも、遺産は不動産だけとは限りません。
- たとえば、銀行預金とか株式のような資産もあります。
- 銀行預金でしたら預金の払い出し手続きをする必要があります。
- 上場会社の株式でしたら、その名義を相続人に移す手続きを証券会社を相手におこないます。
- 相続人が複数いる場合、「誰がどの財産を引き継ぐのか」相続人の間で話し合いが行われることがよくあります。
- ですが、相続人がみなさん働いていて忙しかったり、相続人自身もすでに高齢者であったりして、ご自分で手続きをするのが大変な場合があります。
そんなときに、遺産の名義移転の手続きをエスコートしたり、遺産の分け方を取り決めるための「遺産分割協議書」を作成するなど、司法書士が手続きをお手伝いすることで報酬を得ることもできます。
ということで、相続登記だけではなくて、そこから派生した「遺産の引き継ぎ」のお手伝いというお仕事もあります。
(2)成年後見から民事信託へ
「成年後見から民事信託へ」というタイトルですが、あまり馴染みがないワードかもしれませんので、用語の解説をちょっとだけ挟みながら、お話ししてみたいと思います。
成年後見とは
成年後見は、認知症などになったため判断能力が不十分になった人のために用意されている制度です。
自分で財産の管理をしたり、身の回りのサービスを受けるための契約をすることが難しくなってきた方のために、家庭裁判所に成年後見人を選任してくださいという申し立てをすることで、成年後見人という代理人をつけることができます。
成年後見人というのは、本人に代わって財産管理をすることが主な任務になってきます。
成年後見人はご家族が就くことも多いですが、頼りになる親族がいない場合には、司法書士といった専門家が成年後見人として選ばれるケースがあります。
成年後見制度で救われないケースもある
この成年後見のお仕事は、司法書士の業務としてすでに広く行われていますが、基本的には、本人の判断能力が低下した後に使われる制度になっています。
でも、銀行預金や不動産などある程度の資産を持っているご高齢者の中には、次のような心配をする方がいます。
「ひょっとするそんなに遠くない将来、自分の判断能力が衰えてくるかもしれない。だから、自分がまだ元気なうちに財産の管理を人に任せることができないか?」
前もって民事信託をしておく方法もある
そこで登場するのが「民事信託」です。
民事信託とは、財産管理を任せることができるご家族との間で信託契約という契約を結んで、そのご家族に財産の名義を移して管理してもらうというものです。
その代わり、自宅として使っている不動産であれば、そこに安心して住み続ける権利を持ち続けたり、自分が大家である賃貸アパートでしたら、家賃収入は今までどおり自分が得られるようにすることができます。
所有名義は家族の名義に移して管理してもらい、その財産から得られる利益は、本人が受け続けることができるスキームが可能になっています。
民事信託を使えば、自分がまだ元気なうちに家族に財産管理を任せることができますし、その一方で、その財産から生まれる利益は本人がこれまでどおり得ることができます。
銀行などの金融機関も信託サービスは提供していますが、金銭しか預けることができない場合がほとんどですから、不動産・株式といった財産を持っている方の中には民事信託という方法を検討する方もいます。
司法書士が民事信託の分野で活躍している
そして、ここで登場するのが司法書士です。司法書士事務所の中には、この民事信託のサービスを提供することで売り上げを伸ばしている事務所もあります。
不動産・預金・株式のような財産の信託では、依頼者の事情に合わせて信託のスキームを設計したり、信託契約書を作ったりすることで報酬を得ることができます。
これは、司法書士にとってまだまだ将来性のあるお仕事だと思っています。
司法書士試験に合格するだけの力がある方でしたら、民事信託はすこーし勉強すれば理解は難しくありません。
(3)中小企業のリーガルサービス
中小企業のリーガルサービスと言っていますが、簡単に言いますと企業法務のことです。
いま、先ほど「企業法務にもリーガルテックの波がきている」というお話をしましたが、それは規模が大きな企業のお話になります。
でも企業は大きな会社ばかりではありません。地場の小規模な企業もたくさんあります。
むしろ日本全体を見ると、従業員20名以下の小規模企業が9割近くを占めています。
そのような小規模の会社みんなが、毎月何万円以上もかかる契約書作成のWebサービスをみんなが導入しているわけではありませんし、弁護士事務所を法律顧問として抱えているわけでもありません。
ということで、司法書士事務所の立地によって地域差はありますが、企業法務という分野はまだまだ司法書士が掘り下げていない分野だと思っています。
司法書士が頼まれるお仕事も、会社関係でしたら「会社の登記」の依頼がほとんどだと思います。
ですが、司法書士は受験科目の中に会社法という法律がありますので、司法書士は会社法の知識を豊富に持っています。
ですから、その知識を会社登記だけに使っているのはもったいないという考え方もできるはずです。
しかも、実際に企業法務のニーズはあります。
たとえば、筆者がいただいたご相談の中には、このようなものがありました。(↓)
- 会社の株主総会・取締役会の議事録だけ作って欲しい
- 自分が経営している会社の株式譲渡をする手続きを教えて欲しい
- 株主名簿ってどうやって作ればいいですか?
これらはすべて、会社法の知識があれば解決するお話です。
ちょっとしたお悩みを持っている会社経営者はたくさんいます。
会社経営者からのご相談に親切に対応して、問題解決のためのアイデアを提供していけば、どうなるかといえば・・・
その会社経営者があなたのファンとなってくれて、繰り返しお仕事やご相談をしてくれるようになります。
つまりリピーターになってもらえるのです。
ということで、会社からいただけるお仕事は会社登記だけではなく、会社を運営している中で発生したいろんなお悩み事の解決サポートもあります。
お仕事の依頼があれば報酬もいただくことになりますので、企業法務のお仕事は、事務所の売り上げアップにつながる将来性がある業務になるはずです。
まとめ
というわけで今回は、司法書士の将来性というテーマで、
という3つのお話をしました。
この記事を最後までお読みくださいましてありがとうございます。
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